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| 生きてるみなさん、死んでるみなさん |
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| 千葉正也 (ちば・まさや) |
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| 彼女は素敵な人でした。彼女とは俺のおばあちゃんの事です。生前、かなり人の気分を悪くさせるような行いを
したり、金使いや人使いが荒かったりして他人に迷惑をかけるような事もあったと思います。でも俺はロックンロ
ールでかっこいい人だと思っていたし、優しい人だという事も知ってました。
ところでこの文章、もちろん生きてる人が読むためのものですが、今これを書きながら、(死んでる人も読んでるかもしれない)なんて、大げさで
すが考えてます。俺はいま25歳で、ほぼ毎日絵を描く生活をしていますが、その事はいつも頭のどこかにあること
です。なんでそんな事考えるようになったか、それを今から書きます。
高校生だった頃、俺は馬鹿でした。やっちゃいけなそうな事をすると人が笑う。落とし穴掘ったり、ストリーキ
ングしたり。ある日、神社で酔っぱらった俺は賽銭箱におしっこをして、みんな不幸になりますようにとお祈りす
るジョークをしました。するとすぐに母から電話がかかってきて、秋田の家で祖母が亡くなったという知らせでし
た。びっくり。馬鹿が一つ学びました。そういう事しちゃ、だめ。
数年後,俺は美大の二年生でした。『パワースポット巡り』と称した、半分ふざけたフィールドワークに夢中に
なり、東北を一周するという旅行をしました。途中、秋田でおばあちゃんの墓参りをする事に。合掌、昔より少し
だけ馬鹿ではなくなった事を報告しました。墓参りの後、体調がなんか変。突然!駅ビルの地下スーパーで異常な
恐怖感、目眩、「だいじょうぶ?」と声をかけてくれる友人の顔が悪魔に見えるので、「こっち見てんじゃねえよ
」なんて言ったり、自分でもまともじゃないななんて思いながらも、スーパーは超スーパーだし、街は燃えてるマ
ッチみたいだし。
ガード下で倒れている俺。すると、友達がなぜか知らないおばさんを連れてきました。おばさんは秋田駅前で野
宿しようとしていた俺たちに、家に泊めてやるから来なさいと言いました。家にいく道中,おばさんの犬のロープ
を俺が持つと、犬は嘔吐しました。家に着くとおばさんは「私は龍が憑いてるから何もしなくても月三百万はいっ
てくる」「麻原彰晃は石川五右衛門の生まれ変わりだ」などの無邪気な台詞で俺たちを驚かせました。俺が、おば
あちゃんの墓参りに行ってから体調が変だと言うと、背後に回り、「あんたのおばあちゃんは、いま地獄で苦しん
でるからあんたにしがみついてる。あんたも甘い顔しちゃダメ、それが彼女のためだから」と言いました。「今強
い光当てるね」の台詞の後、俺はいわゆる『除霊』をされたのです。肩の辺りが重い感じだったのが、すっと軽く
なったかと思うと、腰の辺りで活きのいい鯛がビチビチとはねるような感覚。「なんか腰のあたりがちょっと」と
俺が言うと、おばさんが「強い光あてたから下の方いっちゃったんだ」。そういうしくみか……。おばさんが言う
には、人間の55%は地獄に堕ちるらしいですよ。
次の日、龍のおばさんに止められながらも、山形に即神仏を見に行き、そこにはミイラさんが御二人いらっしゃ
いました。どちらの方も命がけで信念とイデアを貫いたわけです。彼らの気持ちは、三日前ならわからなかったけ
ど、その時の僕はまだ背中の方におばあちゃんの感触が残っていたので、不思議と身近に感じる事ができました。
おもしろ半分で眺めていた三途の川の向こうに、ふと見れば橋が架かっていたわけです。びっくり。ふらっと渡ら
ないように気をつけたいものです。いやいや、マジで。『この世は何処まで行っても死体の埋まっていないところ
はない』というようなことを、詩人の金子光晴は言っていました。生きているみなさん、いつか地面の下に行くわ
けですが、できるだけ陽あたりのいいところに埋まりたいものですね。埋まってらっしゃるみなさんにさりげない
優しさ。ゴミは捨てない。立ちションしない……。
おばあちゃん、あれから俺、またちょっとだけ頭良くなったんで、今度お墓に遊びに行きます。
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初出 スタジオボイス(発行:株式会社INFASパブリケーションズ)
2006年8月号 P.102 Voice f Voice 「本当にあった怖い話 3」 |
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