SHUGOARTS
artists exhibitions news editions information home
back to artists
1970 バングラディシュに生まれる
ロンドン在住
ルナ・イスラム  コンクリート建築を舞台とした愛憎関係
「狙撃者」('71年)の舞台となったゲーツヘッド駐車場のために制作された映画
インタビュアー:モンティ・ディピエトロ(Monty Dipietro)
The Japan Times NEW ART SEEN 2004年1月28日 号掲載
 1971年に制作された古典的なイギリス・アクション映画の「狙撃者 (原題:Get Carter)」ではマイケル・ケインがならず者の役を演じている。このならず者は殺された兄弟の復習をするため、ブライアン・モーズレイ演ずる暴力団の男を立体駐車場の屋上から突き落とすのだが、このシーンで舞台となった立体駐車場があるのは、ほこりっぽいイギリス北東部の街、ゲーツヘッドだ。先週知ったことなのだが、どうやら少なくない数のゲーツヘッド住人が、この建物をデザインしたOwen Luderをケインが屋上から突き落とせば良かったと願っているらしい。
 Luderはこの巨大な駐車場を「ブルータリズム」というコンクリート主体の建築様式でデザインした。この建築は1969年に大胆だが見当違いな試みとして完成した。この建築物はゲーツヘッドとその近隣都市であるニューキャッスルが今でも続けている、相手を出し抜くためのゲームの一環だったのだ。今日でも、人口20万人の街全体が小さく見えるほどこの駐車場はそびえ立っており、ゲーツヘッドの重要なランドマークとなっている。しかし、それにも関わらず住人の多くはこの駐車場が出来上がったその日から憎悪し続けている。
 年月を重ねるにつれて、大きなコンクリートの固まりが建物から落下し、その下にある鉄筋部分があらわになっている。他の部分では浸水による被害がこの建築物を浸食している。1995年から最上階は立ち入り禁止となっており、近い将来、この巨大で目障りな構築物は解体され、ゲーツヘッドは悲惨な状態から解放されるのだ。
 ケインがちょうどモーズレイを屋上から突き落とした頃、ルナ・イスラムがダッカに生まれた。このバングラデシュ生まれのアーティストは現在ロンドンを拠点に活動している。Samling Foundationからのコミッションとして制作された彼女の最新作には「Scale (1/16 inch = 1 foot)」というタイトルが付けられており、ゲーツヘッド立体駐車場をその主題としている。この作品は昨夏のイスタンブール・ビエンナーレで初披露され、現在はシュウゴアーツで展示されている。
 イスラムのビデオインスタレーションが見せているのは現在の駐車場そのものではなく、この駐車場がどのようなものになるはずだったのかという姿である。これはイスラムが言うところの「期待していたものと実現したもの、夢と叶わなかった夢」の研究なのだ。
 このビデオはもともと16mmフィルムで撮影されたもので、このことにより映像にはこの駐車場が建設された時代を彷彿とさせる色と質感が備わっている。この作品の「Scale (1/16 inch = 1 foot)」という題名は駐車場の建築模型に由来している。この建築模型は実際の建物の写真と一緒に、インスタレーションを構成している2つのシンクロナイズしたビデオ画像に登場している。
 この展示会場での空間構成は一風変わっている。1つのスクリーンがギャラリーの奥にある壁に設置されており、もう1つ小さめの画像が奥のスクリーンから数メートル離れた場所で、天井から吊られたパネル板に投影されている。もし観客がどちらかの端に立てば、両方のスクリーンを同時に見ることができるのだが、そうしなければ真正面から、手前のスクリーンが奥のスクリーンの真ん中を覆い隠してしまう状態で見ることになる。
 イスラムのこのプロジェクトには地元の劇団が協力してくれた。役者達は決して使われることのなかった駐車場の屋上レストランがもし営業していたら、という設定で演じている。この映画では「レストランの客」が席に座っている間「ウェイター」はワイングラスを磨いたり、ナプキンをたたんだりしている。しかし食べ物が注文されることも、食べ物が給仕されることもなく、そのかわりに完結することのない準備という17分間の儀式を眺めることになるのだが、このレストランのシーンの間には空っぽの駐車場の外観と内観の場面が差し挟まれる。やがてビデオ画像はループし、この奇妙な絵空事は始まりも終わりもないまま延々と続くのだ。
 イスラムの作品は詩的であり、低音が鳴り響いている。私はこの作品を見て何か感情に訴えるものがあると感じた。しかし、まるでゾンビのように役者達が屋上を歩き回る部分は不必然に作りすぎで、とにかく過剰だと思ったのだが。(もしかしたら彼らに車を運転させたら良かったのかもしれない。)
 「Scale (1/16 inch = 1 foot)」を見終わった後、食べ物を食べることの出来ないレストランの客のように、私たちは虚しさに対する罪悪感を沈思することになるのだ。いうなれば、この現代建築の失敗作をどのようにしたら人々が訪れたいと思えるような場所に出来るのかということを。
 ゲーツヘッド立体駐車場は、この建物が時代を先取りしていたものだったと評価している支持者がいなくては存在していなかっただろう。確かにこの建物はその当時、時代を先取りしていたものだった。イスラムはこの建物に魅了された理由をこのように語っている。「見事だけれど非実用的。人々はこの建物を遠目に見るのは好きだけれども、近づけば近づくほどこの建物を嫌うのです。」イスラムはこの作品以外にも引用できるような印象に残る簡潔な意見を述べてくれた。「自分自身が実際に対処しなくても済むものを崇拝することの方が容易なのです。」

Go To Top
文章・画像等の無断転載を禁じます。お問い合わせ SHUGOARTS シュウゴアーツ / info@shugoarts.com
SHUGOARTS website since2003 /designed by Kaori Hoya, constructed by Osamu Kaneko